NHKの朝のドラマ「とと姉ちゃん」の主人公のモデル、大橋鎭子さんの自伝「『暮らしの手帖』とわたし」 人との出会いの大切さを思う

 NHKの朝のドラマ「とと姉ちゃん」の主人公のモデル、大橋鎭子さんの自伝「『暮らしの手帖』とわたし」を読むと、人生において、人との出会いが大切であることがわかります。大橋さんが社長であったからこそ、花森安治さんが名編集長になったのであろうし、花森さんが編集長を務めたからこそ、大橋さんが社長として、「暮らしの手帖」社を率いることができたのであろうと思います。二人三脚で、女性のための雑誌を作り上げた人生は充実したものだったでしょう。

 「それは、運命的な出会いだったと思います。あの日あの時、花森安治さんに出会い、おしゃべりしたということは・・・でなかったら、今の『暮らしの手帖』がなかったわけです」

 大橋さんは、本の冒頭で、こう書いています。花森さんの友人で、ともに東大に進み、大学新聞編集部で一緒だった田宮虎彦さんも、花森さんが死去した際、こんな手紙を大橋さんに送りました。

 「花森君があれだけのことができたのは、もちろん花森君が立派だったからにちがいありませんが、やはりあなたの協力があったからこそだと思います。こんなことを私は言うのは筋違いであり、おかしなことかも知れませんが、花森君が力いっぱい生きることが出来、あのようにすばらしい業績を残したことについての、あなたのお力に対し、あつく御礼を申し上げます」

 小さいころから一緒だった花森さんへの友情、大橋さんへの尊敬の念がしみじみと語られています。なんども読み返しました。

 花森さんは雑誌の記事に対しては厳しい人だったようですが、大橋さんやその家族らとともに、暮らしの手帖の大きな柱となった商品テスト、企業と連携しての商品開発、別冊「住まいの手帖」の発行、ぬりえ、キッチンの研究、などに取り組みました。「私は社長でもあり、一編集部員でもありました」と大橋さんが書いているように、大橋さんや花森さんがアイディアを出し、花森さんの指示の下、ともに取材を重ねていきました。

 「婦人家庭雑誌に新しい形式を生み出した努力」が評価されて、菊池寛賞を受賞した理由がわかります。

 ジャーナリストの浦松佐美太郎さんも、「読者のためを思う誠実は、雑誌の仕事の上に現れる。読者のために役にに立つか立たないか。これが一番簡単な判断の方法であり、カネを払って雑誌を買う読者は、それで雑誌を判断しているのだと言っていいだろう。・・・だからいい雑誌は、ページ数ではなく中身がずっしり重く、編集の丹念さが、まるで掃除の行き届いた住宅のような美しさを作り出しているのだ。・・・結局は、この編集部の誠実さということにすべてが帰着するのである」と書いています。

 大橋さんと花森さんが中心となって、この誠実さを追求したことがわかります。

 私は昨年末、定年退職しましたが、会社時代は、できるだけ横の関係を大切にしてきました。会社は基本的に上下関係ですが、欧州での生活が長かったこともあって、部下も含めて同僚をより重視するように会社生活を過ごしてきました。定年退職してみると、数は多くないものの、今後も末永くおつきあいしたい友人が何人かいます。他社の中にも、こういった友人がおり、同僚、知人を大切にして良かったなあ、と思っています。

 「定年退職するということは、その会社との縁が切れるということ。そこで共に仕事をしていた同僚や部下と縁が切れるということ。定年というのは、ひとつの縁の終わり」と禅僧の枡野俊明さんは、「禅が教える人生の山のくだり方」で、こう書いています。

 無理やり同僚や部下との縁を切る必要はありませんが、今後の生き方を示しています。枡野さんが「一生切れることのない縁というのは、家族以外にはそうありません」と書くように、まずは、家族をこれまで以上に大切にしたいと思います。そして、友人との付き合いをよりいいものに磨き上げていきたいと思っています。

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