マリーヌ・ルペン氏 フランス極右・国民戦線党首の横顔は? 仏初の女性大統領は誕生するか?

 フランス大統領選挙の第1回投票が4月23日に行われます。歴代の大統領を輩出してきた2大政党の候補が低迷する中、極右・国民戦線の女性党首、マリーヌ・ルペン氏(48)が世論調査で支持率トップに立っています。ルペン党首とはどんな政治家なのでしょうか。また、フランス初の女性大統領誕生となるのでしょうか。

 ◇フランスのトランプ?

 マリーヌ・ルペン(Marine LE PEN)氏
 1968年8月5日、パリ近郊ヌイイシュルセーヌ生まれ
 48歳
 ジャンマリ・ルペン前国民戦線党首の3女
 パリ第2大学で、法学(主に刑法)を学び、弁護士として活躍。
 3児の母、2度、離婚を経験。
 
 前回2012年のフランス大統領選で、マリーヌ・ルペン氏は17.90%の得票を獲得、10人の候補の中で3位となりました。上位2人による決選投票には進めなかったものの、国民戦線としては、最高得票率となりました。国民戦線は強硬な反移民、反ユダヤ主義を掲げる極右政党でしたが、今や、ルペン氏は、国政を左右する政治家となりました。
 ルペン氏は最近、「フランスのトランプ(米大統領)」とも言われるようになりました。

 では、なぜ、「フランスのトランプ」とも呼ばれるようになったのでしょうか。

 米国のトランプ大統領が、「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」を主張しているように、ルペン氏も最近、トランプ氏の躍進を目にして、「フランス第一主義」を訴える機会が増えているからです。反移民、大衆に訴えるポピュリズム(大衆迎合主義)という政治手法でも共通しています。

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 ◇フランス第一主義

 大統領選挙公約によると、ルペン氏は以下のような政策を掲げています。

 ・欧州連合(EU)からの離脱の是非を問う国民投票の実施
 ・統一通貨ユーロを廃止して、フランを再び導入
 ・アングロサクソン流自由経済のグローバリズムに反対
 ・仏優先の経済主権の回復
 ・欧州域内の自由往来を定めてシェンゲン協定を廃止し、国境管理を強化
 ・移民受け入れの制限
 ・治安強化
 ・死刑復活

 トランプ大統領は、自由貿易推進を掲げるTPP(環太平洋連携協定)や温暖化対策・パリ協定からの離脱、米国優先の経済主権の復活、移民の大幅削減(メキシコ国境に壁建設など)、治安強化などを訴えています。国情から、同じ政策ではありませんが、2人の政策は底流で、よく似通っていることがわかります。

 ◇ルペン氏がフランス第一主義を推進する理由

 では、ルペン氏はなぜ、フランス第一主義の政策を推進するのでしょうか。ルペン氏には、エリートのEU官僚による政策で、フランスの国力が疲弊しつつあるとの危機感があるためです。仏経済が停滞し、失業率が増加している。また、大量の移民を受け入れたことで、治安が悪化、一部の移民はテロも働いているとの疑念があります。

 トランプ大統領も、大国としての米国の力が失われつつあること、移民増加による治安悪化に懸念を抱いており、「偉大なアメリカ」を取り戻そうとする点でよく似ています。

 ◇国民戦線をソフト路線へ

 ルペン氏が支持率でトップになるまでに躍進したのは、同氏が、極右政党を脱却させ、多くの国民が受け入れやすいソフト路線を取ってきたからです。まず、反ユダヤ主義のイメージを拭い去ることに努めました。父親のジャンマリ・ルペン氏は、マリーヌ・ルペン氏が党首になってからも、「ナチスのガス室は歴史の細部に過ぎない」などと、反ユダヤ主義を再三、強調したため、マリーヌ・ルペン氏は2015年、父親を除名しました。

 反移民は反ユダヤ主義と並ぶ国民戦線のスローガンでしたが、移民受け入れの削減数も緩和しました。ガス・電気料金の引き下げや年金支給年齢の引き下げなど低所得者層も意識した政策を打ち出して、現実路線を定着させました。ファミニズムを訴えて、女性票にも支持を浸透させました。

 フランス第一主義の訴えは、この中で、多くの国民にアピールするものになってきました。

 ◇大統領選の展望

 4月23日に第1回投票が行われる大統領選の展望はどうでしょうか。

 最近の世論調査によると、ルペン氏は24%の支持率でトップ、続いて、中道系独立候補のエマニュエル・マクロン元経済産業相(39)が23%、共和党のフランソワ・フィヨン元首相(63)が18.5%、急進左派のジャンリュック・メランション氏(65)が18%、社会党のブノワ・アモン前国民教育相(49)が9%となっています。

 歴代の大統領は、共和党と社会党の2大政党から選出されてきましたが、今回は、この2大政党の候補は第1回投票で、上位2人に食い込むことは難しそうです。政治潮流の大きな変化です。ルペン氏、マクロン氏が上位2人になる可能性が高くなっています。2002年の大統領選では、父親のジャンマリ・ルペン氏が2位になり、「極右ショック」に見舞われましたが、2017年の今回の大統領選でも、「極右ショック」の再来となりそうです。

 ◇フランス初の情勢大統領誕生か

 では、ルペン氏が、上位2人による決選投票(5月7日)で、フランス初の女性大統領に就任するでしょうか。現時点では、マクロン氏が過半数を制して、ルペン氏を破るという世論調査が多く出ています。しかし、米国では、最終盤で、トランプ氏が、世論調査で優位に立っていた民主党のクリントン候補を大逆転し、大統領に当選しました。

 今回のフランス大統領選も、「まさか」、が起きる可能性があります。英国は昨年6月の国民投票で、EUからの離脱を決めました。そして、昨年秋には、トランプ氏が米大統領に選ばれました。ポピュリズム(大衆迎合主義)の盛り上がりが背景にありました。

 ルペン氏も、英国のEU離脱や米国のトランプ大統領誕生によるポピュリズムの盛り上がりを「追い風」として期待している発言を繰り返しています。ルペン氏がフランス大統領に当選すれば、拡大と深化を繰り返してきた欧州統合の歴史は大きく変わることになりそうです。

 ◇政治略歴

 マリーヌ・ルペン氏の政治略歴は以下の通りです。

 1986年 国民戦線に入党。
 1998年 ノールパドカレー地域圏議会議員。
 2003年 国民戦線副党首(全部で8人)。
 2004年 欧州議会議員。
 2007年 大統領選で、立候補した父の選挙対策責任者を務める。
 2009年 欧州議会議員に再選。
 2011年 国民戦線党首。党大会で、ナンバー2でリヨン大学教授のブルーノ・ゴルニッシュ氏を破る。 
 2012年 大統領選の第1回投票で、17.90%を獲得、3位に。
 2014年 欧州議会議員に3選。

 ◇幼少時代の辛い経験

 ルペン氏が8歳の時、父親のジャンマリ・ルペン氏暗殺を狙ったテロで自宅が爆破され、マリーヌ・ルペン氏も姉らとともに負傷しました。死はまぬがれたものの、この時、マリーヌ・ルペン氏は、いかに父親が国民に嫌われているかを理解したといいます。

 また、小学校では、極右政党の党首を父親に持つことから、いじめを受けました。

 幼少期の経験が、国民戦線をより大衆受けするソフト路線に舵を切る原点になっているとも言えかもしれません。

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