フランス マクロン大統領の新党「共和国前進」とは? 国民議会(下院)選で圧勝 仏政界を大きく再編

 2017/6/19更新

 フランスのエマニュエル・マクロン大統領の新党「共和国前進」が6月18日の国民議会(下院、定数577)選で、過半数以上を獲得して圧勝しました。1958年の第5共和制以来、2大政党が政権を担ってきましたが、仏政界は大きく再編されることになります。

 ◇共和国前進とは?

 新党の「共和国前進」は、マクロン前経済相が2017年春の大統領選に向けて2016年4月に設立した選挙母体「前進」が前身です。大統領選でマクロン氏が当選した後、2017年5月、「共和国前進」に名称変更し、政党として登録しました。このため、現在、国民議会で議席は保有していません。

 政党登録に伴って、マクロン氏は同党の代表を辞任、幹部のカトリーヌ・バルバル氏(女性)が暫定代表に就任しました。

 国民議会の候補者は、政治経験のない新人が半数を占めているのが特徴です。これに、オランド政権与党の中道左派・社会党や、中道右派・共和党からの移籍組が加わっています。

 ◇第1回投票

 6月11日に行われた第1回投票では、過半数を得て当選を決めた候補が多くなく、6月18日の決選投票で大勢が判明することになっていました。共和国前進は、連携する協力する中道政党と合わせると、国民議会の過半数を大きく上回わりました。

 ◇勝因

 有権者は、新しい変化を求めたと言えます。フランスでは、中道右派(現在は共和党)、中道左派(同社会党)が交互に政権を担当してきましたが、有権者は、高い失業率、経済低迷、テロ増加などの中で、この既存政治からの脱却を望んだ結果です。新人が全国各地で、議席獲得の見込みであることがこの変化を裏付けるものとなっています。

 また、マクロン大統領が、フィリップ首相(共和党)、ルドリアン外相(社会党)ら重鎮を2大政党から現内閣に招いたことも有権者に安心感を与える結果になりました。

 さらには、経験不足を懸念されたマクロン大統領が国際政治の舞台で、米国のトランプ大統領やロシアのプーチン大統領らと対等に渡り合ったことも効果がありました。

 ◇政権運営の基盤確保

 マクロン大統領は、「共和国前進」の議員が国民議会の過半数を得たことで、安定的に政権運営する基盤を築きました。

 「共和国前進」の躍進で、2大政党を中心に推移してきた仏政界は大再編されることになります。1958年の第5共和制以来、脈々と続いてきたフランス政治が、「共和国前進」を中心に大きく変わります。

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 ◇政策

 最大の特徴は、欧州連合(EU)との関係を重視している点にあります。「フランスは欧州とともに成長する」「欧州があってこそ、フランスの繁栄、未来がある」と度々、マクロン氏が発言している背景には、EUを重視していこうとの姿勢があります。

 マクロン氏のプロフィールでも書きましたが、以下の政策が主なものです。マクロン氏の政策理念をもとに、新議員で「共和国前進」の政策を練ることになります。

 ・EU財政統合の推進
 
 EU域内では、一部の加盟国を除いて、統一通貨ユーロを導入していますが、この通貨統合をさらに進め、EU全体で共通予算を組むことを提言しています。現在のEU予算は、分担金や農業補助金などが柱となっていますが、さらに、加盟国の負担を増やそうとするものです。財政統合にまで踏み込んだ大胆な提言と言えます。

 ・EUシェンゲン協定の維持

 EUは、シェンゲン協定(1995年発効)で、域内の出入国審査を廃止し、ヒト、モノ、カネの域内自由往来を定めていますが、この協定を維持していくことを主張しています。シェンゲン協定は、EUの基本方針の一つで、ここでも、マクロン氏の親EUの姿勢が表れています。
 なお、英国は、移民規制の観点から、このシェンゲン協定に反対し、EU離脱を決める一因になりました。

 ・仏独連携の推進

 拡大と深化を遂げてきた欧州統合は、フランスとドイツがけん引役となって進めてきました。マクロン氏は、仏独でさらに欧州統合を進めていく方針を示しています。

 ・EU防衛政策強化 

 EUは、紛争地域で展開する即応部隊の創設や、加盟国の防衛力強化などを目指した欧州防衛庁(EDA)の設置などを決めていますが、マクロン氏は、さらに、EUの防衛政策を強化するとしています。

 ・移民、難民の受け入れ

 主に、内戦中のシリアから難民、移民がEU域内に流入していますが、マクロン氏は、人道上、必要となる難民は受け入れるべき、との立場に立っています。難民申請については、迅速に対応するよう提言しています。

 ・テロ対策

 情報共有などで欧州各国と協力することを表明するとともに、警察官を1万人増員するとしています。フランスの諜報機関を強化することにもしています。

 ・国内企業の国際競争力アップ

 法人税率を現在の35%から25%に下げることを表明しています。また、フランスでは、週35時間労働が労働政策の基本となっていますが、この週35時間労働を柔軟に運用できるようにし、企業の国際競争力をアップさせるとしています。

 ・公務員削減

 公務員を12万人削減して、600億ユーロ(約7兆200億円)歳出を減らす方針です。

 ・公共投資

 5年間で500億ユーロ(約6兆円)を投資し、景気向上を図るとしています。

 ◇課題

 共和国前進は大躍進しましたが、第1回投票の投票率が48%、決選投票の投票率が42%と過去最低となりました。また、マクロン大統領の支持率も45%と低くなっています。これらの数字からすると、まだまだ、仏政界は揺れることになりそうです。

 マクロン大統領にとっては、中道右派、中道左派をどう取り込んで、新党「共和国前進」の基盤を強化できるかが大きな課題になります。

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