EUが移民・難民問題の対応で苦慮! 問題の原因や流入ルート、政策をわかりやすく解説!

 EU(欧州連合)加盟28か国が、移民・難民問題の対応に苦慮しています。ピークの2015年に比べると、EU域内への移民、難民の流入数は大きく減ったものの、有効な政策を打ち出せないままになっています。移民・難民問題の原因や流入ルートの変化、政策などについて、わかりやすく解説します。

 ◇原因は?

 「アラブの春」という民主化運動が大きく関係しています。2010年、チュニジアで始まった民主化運動は、当時のベンアリ大統領を退陣に追い込みました。「ジャスミン革命」と呼ばれ、その民主化要求のうねりは、中東、北アフリカに拡大しました。

 エジプトでは2011年1月、反政府デモが発生、同年2月、30年以上独裁体制にあったムバラク大統領が退陣しました。また、リビアでも、2011月2月、反政府運動が起きて内戦に突入、8月、約42年間、独裁政権を率いたカダフィ大佐が退陣しました。

 さらに、シリアでも、2011年3月、アサド政権が民主化運動を弾圧したことで内戦になりました。現在は、ロシアの軍事支援で、アサド政権軍が軍事的優位に立っていますが、内戦が泥沼化する中で、移民・難民は生まれ続けています。

 イスラム過激派組織「イスラム国(IS)が一時、勢力を拡充し、政情不安に拍車をかけました。

 民主化運動がドミノとなって独裁政権を倒したものの、政権による民衆弾圧などの混乱が、移民・難民流出の大きな原因になりました。また、シリアでは内戦が泥沼化するなど政情は悪化し、移民・難民流出を増幅する結果となりました。

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 ◇移民の構図が大きく変化

 欧州ではこれまで、英国、フランス、オランダが旧植民地の人々を移民として受け入れてきました。また、ポルトガルやスペイン、イタリアなど南欧の国々から移民が経済的な豊かさを求めて北上し、ドイツやフランス、英国を目指すという歴史がありました。

 しかし、今では、中東、北アフリカから、移民・難民が欧州を目指すという構図が主流になってきました。

 ◇流入ルートは?

 2014年ごろから、中東、アフリカからの移民・難民は密航船で地中海を渡り、欧州に上陸するようになりました。流入ルートや、これまでの移民・難民の流入数(2010年から2017年まで、EU統計局発表)は、以下のようになっています。

 2015年ころから シリアから陸路で、トルコ、ギリシャを経て欧州へ(東部バルカンルート) 移民・難民数 約133万人

 2016年ころから アフリカ各国(リビアなど)から地中海を渡って、イタリアなど欧州へ(中部地中海ルート) 移民・難民数 約75万人
 
 2017年ころから 北西アフリカ(モロッコやアルジェリアなど)から地中海を渡って、スペインなど欧州へ(西部地中海ルート) 移民・難民数 約7万人

 東部バルカンルートは2016年に閉鎖されましたが、移民・難民は2018年になって、トルコ、ギリシャなどを経て、EUに加盟していないボスニア・ヘルツェゴビナに流入し始めています。

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 ◇なぜ、移民・難民の受け入れが進まないか

 移民・難民を受け入れることで、財政負担が増大するとの不満や、仕事を奪われるのではないかとの懸念、さらには、治安が悪化するのではないかとの不安が多くのEU加盟国の国民の間にあるためです。

 特に、移民・難民が最初に到着するギリシャやイタリア、スペインでは、厳しい財政状況にあります。失業率も他のEU改名国に比べると高く、これらの不満や不安が増幅されています。

 ◇これまでの政策は?

 EUは2015年8月、難民約16万人を加盟国で分担して受け入れることを決めましたが、ハンガリー、チェコ、ポーランドなど東欧4か国が反対し、受け入れは十分に進展していません。

 また、EU首脳会議は2015年11月、トルコの難民支援に30億ユーロを拠出することを決めましたが、トルコから欧州へ向かう難民をトルコ国内に留めることはできませんでした。2016年3月、EU首脳会議がトルコからエーゲ海を渡ってギリシャに渡った移民・難民をトルコに送還することを決め、ようやく、この流入を抑制できました。

 こう概観すると、あまり効果が上がっていないことがわかります。エーゲ海経由の移民・難民は劇的に減少したものの、ルートは、中部地中海ルート、西部地中海ルート、さらには、EU未加盟国のボスニアを目指して多様化しています。

 ◇現在の政策は?

 2018年6月のEU首脳会議では、未明までのマラソン協議の結果、以下のような政策で合意しました。

 ・北アフリカなどEU域外に、難民申請の受け付け施設を設置
 ・EU加盟国もEU域内に、同様の難民申請の受け付け施設を設置
 ・アフリカ諸国支援のため5億ユーロを拠出
 
 いずれも、地中海を渡ってEUに流入する移民・難民を抑制するのが最大の狙いです。政治的に危険な状況にある難民か、経済的な豊かさを求めて移動する移民かを受け入れ施設で区別しようとするものです。

 ただ、難民申請の受け付け施設をどこに設置するのかまでには、首脳会議では踏み込めず、あいまいな政治的合意となりました。

 また、難民が最初に入国したEU加盟国が難民申請手続きや保護を担うという「ダブリン規則」については、議論が棚上げになりました。イタリア政府などが、地中海沿岸の国々に過重な負担を強いられるとして、この規則に反対していました。

 ◇まとめ

 2018年1月から7月まで、中東や北アフリカから欧州に到着した移民・難民は10万人弱です。2015年の100万人以上に比べると 大幅に減少しましたが、移民・難民問題は、EUを大きく揺らす政治課題になっています。次回10月のEU首脳会議で、どう対策を打ち出すことができるか注目されます。

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