磯田道史さんの本「無私の日本人」は、映画「殿、利息でござる」の原作 江戸時代の歴史を学ぶ 

 映画「殿、利息でござる」の原作となった著書「無私の日本人」(磯田道史著)では、江戸時代の政治、経済、社会などがふんだんに紹介され、歴史も学ぶことができます。日本史の教科書に掲載された史実はもちろんですが、教科書には出てこない史実も解説されており、楽しく読むことができます。

 学ぶべき史実は、本の随所にあります。

 「徳川時代の武士政権のおかしさは、民政をほとんど領民に任せてしまっていたことである。その意味で、徳川時代は奇妙な『自治』の時代であったといっていい」。

 磯田さんは、本の中で、こう書いています。徳川政権は約260年に及ぶ長期の武家体制を築いたことは良く知られていますが、その民政について学ぶことはあまりなく、江戸時代を知るうえで大いに役立ちます。

 大名家(藩)というのはもともと軍隊で、民政の組織ではない。武家政権としては、百姓は年貢をおさめてくれればよく、農村の瑣事には立ち入る必要がなかった—―ということを磯田さんは説明しています。

 ここでできたのが、村請制、庄屋制という制度で、有力農民を選んで庄屋(肝煎)に任命し、村単位での徴税と民政を請け負わせた制度だったのだそうです。庄屋の上に、約10村ごとに大庄屋(大肝煎)を置いたため、大庄屋は農村で絶大な権力者になったといいます。

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 大庄屋の上には、藩の武士が務める代官、その上に、郡(こおり)奉行、さらに、その上に、出入司、お奉行がいたこともわかります。宿の有力商家には、公には使用できないものの、私信で名乗ることが出来る「隠し姓」が許されたこと、江戸時代の日本の人口は3000万人、家数は600万軒、村は5万であったことも学べます。

 「武家が150万、庄屋が50万、それに神主や僧侶を加えた一割たらずが、洗練された読書人口であって、とりわけ、農村にいた庄屋の50万人が、文化のオーガナイザーになっていた。庄屋は、百姓たちにとって、行政官であり、教師であり、文化人であり、世間の情報をもたらす情報機関でさえあった」

 磯田さんは、こう書いています。庄屋が大きな役割を果たしていたことがわかります。

 江戸幕府が通貨発行を自ら行わず、商人にゆだねたこと、一人でできる役職を二人以上で担当させ、多くの武士を役につけた「相役」があったこと、さらには、月当番にした「月番」があった史実も興味深いものです。

 藩に大金を貸し付けて、その利息で、荒廃著しい町の再建を図る。宿を救うという公のために私を捨てるという奇策が小説の核ですが、こうした史実は、物語を深めてくれます。私は、一つ一つの史実をノートに抜き書きし、貴重な歴史学習の場にしました。繰り返し読んで、江戸社会を理解したいと思います。

 本の解説で、作家の藤原正彦さんは、磯田さんが、「図書館や古本屋などで古文書を一日中読んでいる時が一番幸せ」と語るのを聞いたことを書いています。こうした磯田さんの地道な史実読みがあったからこそ、小説は厚みを増して、面白くなるのでしょう。ストーリーの展開を楽しみながら、江戸の歴史を学ぶ。心豊かな時間を読むたびに過ごせそうです。

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