ドイツのメルケル首相の後継は誰に? 与党CDUで党首選へ

 ドイツ最大の与党で中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)が4月25日、党大会を開き、新しい党首を選ぶことになりました。クランプカレンバウアー党首が2月上旬、辞意を表明したためです。同党首はCDUの首相候補となることも断念しており、同党首を首相候補として2021年秋の総選挙を戦おうとしたメルケル首相の戦略は崩れることになりました。

 CDUの党大会に向けては、反メルケル、親メルケルの計3人が立候補しています。新党首は、次期首相の有力候補になるだけに、ドイツ最大与党は今後、大きく動きそうです。

クランプカレンバウアー党首の辞任の理由

州首相選挙

 クランプカレンバウアー氏は2018年12月の党首選で、親メルケル派の筆頭として党首に選出されましたが、2020年2月、中部チューリンゲン州で行われた州首相選挙が引き金になって、辞意表明に追い込まれました。

 同州議会ではなかなか首相が決まらず、3回目の投票で、CDUが、右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」とともに、州議会最小政党の中道右派・自由民主党の候補を支持しました。この候補は選ばれましたが、ドイツで初めて、右翼政党が支持する候補が州首相になったため、クランプカレンバウアー党首に対する批判が一気に高まりました。この批判の中で、新首相は1日で辞任しました。

支持率低迷

 クランプカレンバウアー氏は、メルケル首相の秘蔵っ子として、最大与党の党首に就任しましたが、CDUは、州議選で相次いで敗北。クランプカレンバウアー氏自身も、ネット上の批判規制を認めるような失言をしたため、求心力を失い、党の支持率低下を招いていました。

 メルケル首相も、クランプカレンバウアー氏の党首辞任はやむを得ないとの見方を示し、自分の後継首相にクランプカレンバウアー氏を据えようとした戦略が崩れたことを認めました。

党首選には、3人が立候補

 党首選に向けては、これまでに、メルツ元連邦議会院内総務(64)、ノルトライン・ウェストファーレン州のラシェット州首相(59)、レトゲン元環境相(54)の3人が立候補しています。メルツ氏、ラシェット氏がトップ争いを演じ、やや離れて、レトゲン氏が追う展開になっています。

メルツ氏

 メルツ氏は、メルケル政権のリベラル路線に異を唱え、CDUの保守回帰を訴えています。同氏は2002年、メルケル首相から院内総務を外され、2009年に政界を引退した経緯から、「反メルケル派」の代表格です。

 メルケル政権が寛容な移民政策を取ったあまりに、移民排斥を訴える極右のAfDの伸張を招いたとして、移民を抑制すべきとの立場を取っています。「移民政策には、法秩序を欠いている」と強調します。AfDに奪われた票を取り戻せれば、CDUを立て直せるとの立場です。

 政界復帰後、2018年の党首選では、クランプカレンバウアー氏に僅差で敗れましたが、今回は、党の弱体化が表面化する中で、党首奪取に意欲満々です。

ラシェット氏

 メルツ氏とは反対に、ラシェット氏は、15年間に及ぶメルケル政権の継承を政策の根幹に据えています。メルケル政権の中道路線を放棄すれば、CDUの支持者は、中道左派のドイツ社会民主党(SPD)や緑の党に移ってしまうとの危機感があります。

 中道路線を強化してこそ、CDUは生き残れるとの立場です。緑の党の幹部との関係が良好なのも強みとなっています。

 保守派で反メルケル派のシュパーン保健相は当初、党首選に立候補する意欲を示していましたが、ラシェット氏の説得で、ラシェット陣営に加わりました。保守派の一角が崩れたことで、メルツ氏より優位に立つのではないかとの観測が強まっています。

レトゲン氏

 レトゲン氏は、環境相時代、メルケル首相に解環境相を解任された過去があり、メンツ氏と同様、反メルケル派です。現在、連邦議会(下院)の外交委員会委員長ですが、党内基盤が弱く、他の2候補に支持率で引き離されています。

 当初、レトゲン氏は党首選に立候補するとはみられていませんでした。

今後の展望

 党首選の結果、CDUは大きく変わりそうです。反メルケル派のメルツ氏が勝利すれば、メルケル首相による中道リベラル路線は修正される可能性が高まります。メルケル首相は2021年秋まで首相に留まる方針ですが、メルケル首相の早期退陣を求める声が高まることも予想されます。

 メルケル派のラシェット氏が勝てば、一応、メルケル路線は維持されますが、メルケル首相の下、クランプカレンバウアー党首が指導力を十分発揮できなかった反省から、首相と党首を同一人物が務めた方がいいとの声も強まりそうです。そうすると、こちらの場合も、メルケル首相の早期退陣を求めることにもなりそうです。

 CDUは支持率20%台に低迷し、大連立を組むSPD(支持率15%)とともに、退潮傾向に陥っています。緑の党やAfDが伸張するなか、新党首は、CDUの党勢回復をどう図るか大きな課題に直面することになります。

イワシ運動とは/なぜ、イタリアで、この運動が広がっているのか

スポンサードリンク