中距離核戦力(INF)全廃条約をわかりやすく解説 失効で軍拡路線へ?

 冷戦終結の流れを築いた米国とロシア間の中距離核戦力(INF)全廃条約が締結から30年余を経て、2019年8月2日に失効しました。米国のトランプ政権が2019年2月、ロシアの条約違反を理由に条約からの離脱を通告、条約規定に基づき、通告から6か月後に失効となりました。ロシアも同等の離脱措置で対抗、両国に歩み寄りはありませんでした。

 また、米国は失効16日後の8月18日、地上発射型の中距離巡行ミサイルの発射実験を行いました。

 INF全廃条約は、どんな内容で、どんな意義を持つのでしょうか。また、米国、ロシアはなぜ、条約からの離脱に踏み切ったのでしょうか。一転、軍拡路線への傾斜も懸念される国際情勢を探ってみました。

 ◇INF条約とは

 INFは、Intermediate―range Nuclear Forcesの略で、中距離核戦略全廃条約と訳されます。東西冷戦真っただ中の1987年12月、当時のレーガン米大統領とソ連のゴルバチョフ共産党書記長が調印し、翌年の1988年6月に発効しました。

 2国が保有する射程550キロから5500キロまでの地上発射型ミサイルを3年以内に全廃するとの内容です。条約通り、両国の検証・査察も行われ、1991年5月に2国で廃棄が完了しました。再び、保有することも禁止しています。

 ◇INF条約の意義

 INF条約の意義は、史上初の兵器全廃条約となった点です。INF条約が発効したことで、東西緊張緩和が進み、冷戦終結を引き寄せる結果となりました。そして、冷戦終結後の1991年7月には、より射程の長い戦略核を対象に、第1次戦略兵器削減条約(START1)が締結されました。

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 ◇米、ロシアの立場

 米国側は、オバマ政権時代から、ロシアの条約違反を批判し続けてきましたが、トランプ政権は、ロシアの地上発射型巡行ミサイル「9M729」や短距離弾道ミサイルが条約違反にあたると特定しました。

 これに対して、ロシアのプーチン大統領もINF失効を前に、自国の条約違反を改めて否定したうえで、「米国が離脱するのなら、ロシアも離脱する」として、条約の義務履行を停止するよう命じていました。

 ◇中国の中距離ミサイル開発

 米国のトランプ政権が条約からの離脱を選択した、もう一つの理由として、中国の存在を指摘する声が強くあります。中国は、NF条約の枠外で独自にミサイルの開発・配備を進展させてきたためです。

 中国はミサイルを開発・配備できるのに、米国は禁じられている――。そんな危機感、不公平感が米国の条約離脱を引き出したという見方です。

 ◇軍拡路線へ

 米国、ロシアが再びミサイル開発に踏み切る。そして、中国も両国の動きに刺激されるー。

 そんな事態になれば一転、世界が軍拡路線に転じる潮流となります。各国とも財政負担が重すぎるため、ミサイル開発には慎重に対処したい構えですが、ミサイル開発をせざるを得ない状況になっています。

 米国はINF条約失効後の2019年8月のミサイル発射実験に加えて、同11月には射程3000~4000キロの弾道ミサイルの発射実験を行う計画とされています。

 ロシアのプーチン大統領も、海上、空中発射型の中距離ミサイルを地上発射型に改良する意向を示しています。

 中国も米領グアムを射程内にとする弾道ミサイル「東風(DF26)」などの中距離弾道ミサイルや巡行ミサイルの開発を急ピッチに進めています。

 ◇まとめ

 米国のトランプ大統領は、米国、ロシア、中国の3国を対象とした核軍縮の取り決めについて協議するよう提案しています。米国のトランプ大統領と、ロシアのプーチン大統領は今年6月、大阪で開催した主要20か国・地域首脳会議(G20サミット)で、21世紀の核軍縮の枠組みを議論することで合意したものの、以後、それ以上の進展はありません。

 中国もすでに、新たな核軍縮交渉には参加しない方針を表明しています。3国間の核交渉は再び、混迷化しそうです。国際情勢が緊迫する恐れも出ています。

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