国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は、商業主義や費用増大などが批判されるオリンピックをどう改革しようとしているのでしょうか。東京オリンピックに向けての中長期改革案の「アジェンダ2020」を通じて探ってみました。
◇アジェンダ2020とは
バッハ会長が就任以来、推進してきた中長期のオリンピック改革案です。いったんオリンピック開催に立候補した都市が多額な開催費用を理由に立候補を辞退することが相次いだことから、オリンピックの在り方を見直すために打ち出されたものです。
世界各国から寄せられた4万件以上の意見書を集約して、40項目にまとめられました。2014年12月のIOC臨時総会で満場一致で採択されました。オリンピックを一層、魅力的なものにすること、増大する予算を抑制すること、などが大きな柱になっています。
主な改革案は以下の通りです。
・夏のオリンピックでの競技数の上限(28競技)を撤廃、310種目、選手15000人を超えない範囲で競技内容を見直す。
・冬のオリンピックは、100種目、2900人を超えない範囲で行う。
・既存、仮設施設を積極的に利用し、コスト削減を図る。
・開催都市が大会で実施する種目を追加提案できる。
・開催都市、海外国以外で、競技の一部を実施できる。
・女性参加率の目標を50%。とする。
・八百長やドーピングを防止する。
・プロスポーツとの関係を見直す。
・ユース選手の育成を強化する。
これらは、2020年の東京オリンピックから順次、実施していくことになっています。バッハ会長は2016年10月に来日、IOC、日本政府、東京都、大会組織委員会の4者協議を設立するよう提案、日本政府など他の3者もこれに合意しました。
この4者協議では、大会経費の削減が主要課題になる見通しですが、大会経費の削減は、アジェンダ2020にあるもので、今後、既存、仮設施設の積極的活用なども検討されるものとみられます。
また、バッハ会長は、野球やソフトボールを念頭に、競技の一部を東日本大震災の被災地で開催するように提案、安倍首相もこれに賛同しましたが、これもアジェンダ2020の「開催都市以外での一部競技実施」に基づいたものです。
こうして見ると、アジェンダ2020をしっかり理解しておくことが大切なことがわかります。
◇バッハ会長の信念
バッハ会長は、調和と多様性を重視しています。バッハ会長は、これを一つのオーケストラにたとえ、「オーケストラのすべての奏者がそれぞれの担当楽器で全力で責務を果たしてこそ、オーケストラは完全な音色を奏でることができる」と語っています。2020年の東京オリンピックが成功するよう、すべての参加者が協力することが重要です。
◇トーマス・バッハ(Thomas Bach)会長
国際オリンピック委員会(IOC)の第9代会長。
2013年9月10日、アルゼンチンのブエノスアイレスで開かれたIOC総会で、12年間、IOC会長を務めたジャック・ロゲ会長(ベルギー出身)の後任として選ばれました。
1期目の任期は8年(会長の任期は1期目8年、2期目4年で、3選はなし)で、2020年開催の東京オリンピックを手掛けることになります。ドイツオリンピックスポーツ連盟 (DOSB) 前会長でもあり、IOCでは以下のような職務を務めてきました。
1991年、IOC委員
1996年、理事
2000年-2004年、2006年-2013年 副会長
IOCでは、規律委員長としてもドーピング防止などに取り組みました。
◇バッハ会長の個人略歴
1953年12月29日ドイツ・バイエルン州ヴュルツブルク生まれの64歳。
ヴュルツブルク大学法学科で法律を学び、大学生だった1976年、モントリオールオリンピックに、西ドイツ(当時)のフェンシング・フルール団体の一員として参加し、金メダル獲得しました。
大学卒業後は、弁護士として活躍していましたが、1980年のモスクワオリンピックを多くの欧米諸国がボイコットしたことに伴い、スポーツ行政にも深く関与するようにもなりました。
法律、経済、スポーツなどに関して多数の著書があります。
トップのイラストは、「いらすとや」のものです。