来年1月20日に米大統領に就任するドナルド・トランプ氏(70)が11月21日、選挙公約通り、就任初日に米国が環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱する方針を発表しました。トランプ氏がTPPに反対する理由は何でしょうか。巨大な自由貿易体制の構築がほぼ困難になった衝撃は大きく、日本をはじめ世界経済に大きな波紋を投げかけそうです。
TPPとは
Trans-Pacific Partnershipの略で、日本語では、環太平洋経済連携協定となっています。当初は、シンガポール、ブルネイ、ニュージーランド、チリの4か国が目指した自由貿易体制でしたが、アジア経済の潜在力に着目した米国が自ら主導権を発揮し、新しい巨大な自由貿易協定を作ることになりました。参加国は12か国で、以下の通りです。
・日本
・米国
・カナダ
・メキシコ
・ペルー
・チリ
・ベトナム
・ブルネイ
・マレーシア
・シンガポール
・オーストラリア
・ニュージーランド
世界地図を見ると、広い太平洋をはさんで、巨大な自由貿易体制の構築を目指したものであることがわかります。日本は2013年7月から交渉に参加しました。12か国は2015年10月に大筋合意し、今年2月、協定に署名しました。
アジア太平洋地域で、人、モノ、カネの自由往来を可能にし、ほとんどの関税を撤廃(一部は引き下げ)します。また、関税撤廃を阻む規制や制度を「非関税障壁」として廃止します。さらに、投資や知的財産、サービスについて、共通ルールを策定することにしています。
発効すれば、12か国の国内総生産(GDP)は合計で約3100兆円に及び、全世界の4割を占めます。人口も全世界の1割に相当する約8億人となる見込みで、巨大な経済圏が環太平洋地域に出来上がります。
ただ、発効条件は、参加国のGDPの合計が85%以上に達し、6か国以上が承認した時点としており、米国(全体に占める米国のGDP比率は60.4%)が参加しない限り、発効しません。
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トランプ氏の発言
米国では、大統領権限で、TPPに参加するかどうかを決定できます。このため、トランプ氏がTPPからの離脱を表明したことで、TPPは「漂流」する事態となりました。安倍首相らはぎりぎりまで説得工作を続ける方針ですが、トランプ氏のこれまでの発言を振り返ると、説得工作が難航するであろうことが予測できます。こんな発言です。
「TPPはアメリカにとって災難となる恐れがある」
「TPPは公平さに欠け、雇用を奪う」
「TPPは最悪の貿易協定だ」
「TPPは米国の労働者を困窮に追い込む」
「TPPはアメリカの製造業を衰退させる」
「TPPはゴミ箱行きだ」
反対の理由
トランプ氏が、「米国第一主義」を掲げていることがその背景にあります。トランプ氏は11月21日のネット上での演説で、自らの政策が「米国第一主義」の原則に基づいていることを強調、鉄鋼や自動車、医療などすべての分野で改革を行い、富と雇用を米国民のために創り出すことを約束しました。
不公平な貿易協定ができれば、雇用が奪われ、米国民の生活水準が低下します。米国への輸入増で、米産業も衰退します。米産業の海外流出も招きかねなません。そんな強い危機感があり、「米国の経済的自由の確立」「偉大な米国」を標ぼうするトランプ氏にとっては、TPPは受け入れがいたいものになりました。
今回の大統領選では、かつて鉄鋼業や重工業などで栄えた「ラストベルト(さびついた工業地帯)」と呼ばれる米中西部の接戦州、オハイオ州やペンシルベニア州を押さえたことがトランプ氏にとって大きな勝因になりました。ラストベルトには、失業に悩み、生活水準の向上を実感できない白人が多く住んでおり、反TPPの強い地域です。
トランプ氏が当選後、最初の演説に出かけたのもオハイオ州で、反TPPの方針を鮮明にしました。「労働者の雇用」を守る明確なメッセージが込められていました。
日本、世界経済への波紋
日本にとって、米国のTPP離脱は大きな打撃になりそうです。TPPが発効すれば、
・日本が輸出する工業製品99.9%、農林水産品の98.5%にかかる関税最終的に撤廃され、自動車や電気製品などで輸出が拡大する
・日本へ輸入される農林水産品の82%で関税が撤廃されるため、消費者はこれまでより安く購入できる
などが期待できます。国内農業への悪影響をどう軽減するかの問題も残りますが、日本政府はTPPの発効で、日本のGDPは13兆6000億円押し上げられ、約80万人の雇用が生まれるとしています。しかし、トランプ氏がTPP離脱を決めれば、この経済効果はなくなります。
また、トランプ氏は今後、貿易取引については、「米国に雇用と産業を取り戻すために、公正な二国間交渉」を行うことを表明しています。この二国間交渉は、WTO(世界貿易機関)時代から続いてきた多国間貿易体制を否定するものだけではなく、米国の保護主義的な貿易政策が、2国間で貿易摩擦を引き起こしかねないリスクも高めるものとなります。
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