池波正太郎著「江戸切絵図散歩」の感想 江戸切絵図で、江戸歩きを楽しむ

  江戸時代の地図「江戸切絵図」は本当に面白いなあ、と思います。地図を開き、読んでいるだけで、いろいろ想像することができます。その江戸切絵図と現代の地図を重ねた「大江戸今昔マップ」(中経出版)を持っていますが、作家・池波正太郎著「江戸切絵図散歩」を再読すると、その面白さは倍増しました。池波正太郎著「江戸切絵図散歩」の感想を書きます。江戸切絵図で、江戸歩きを楽しむといいでしょう。

池波正太郎著「江戸切絵図散歩」の感想 江戸切絵図で、江戸歩きを楽しむ

 本の中には、明治40年の「大日本東京全景之図」もあり、江戸切絵図、池波の散策による観察、そして、現代の風景を重ねることで、江戸から東京への街の変遷が時代を追ってわかります。

 「江戸時代、それも徳川幕府の政権が安定し、独自の文化が生まれ、成熟するにつれ、つぎつぎに刊行された[地図]の美しさは、いくら見ても飽きることがない。日本の、江戸の職人の巧妙繊細な手指の働きが、このように美しい木版刷りの地図を生んだのだ。中でも、地域別につくられ、携帯に便利な[切絵図]は、私のような、江戸期を舞台にした時代小説を書いている者にとっては、欠かせないものだ。私は[切絵図]と共に毎日を送っているといってよい」

 池波正太郎は、この本の冒頭にある「上野界隈」の章で、江戸切絵図の魅力と、その重要性をこう書いています。

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 池波正太郎が最初に、切絵図を買ったのは昭和30年です。高価でしたが、脚本料があったため買えたとしています。

 池波正太郎は、「渋谷と青山」の章でも書いているように、古い地図や絵、少年時代に見た風景を積み重ねながら、小説などの作品を仕上げたといいます。池波正太郎はその例として、「鬼平犯科帳」の「あごの三十両」という短編も、渋谷を舞台に以下のように書いたことを紹介しています。

 「現代から約二百二十年前の渋谷は、江戸の郊外で、寺院や武家屋敷、大名の別邸などがある地域をのぞいては、田園の風景そのものといってよかった。氷川明神の鳥居をくぐり、折れ曲がった参道を渋谷川のほとりに出て、左へ少し行くと、道端に、古びた百姓家が一つあり、土間や軒先へ、わずかばかりの荒物を並べ、商っているらしい」

 江戸の風景が鮮明に描かれています。江戸を舞台に、登場人物が縦横に行き交います。作品に重厚感が出てくるのがわかります。

 小説を読むだけで、江戸の町並みや、人々の行き交う様子、生き様、文化などが目に浮かんでくるようです。池波作品の面白さはこんなところにもあります。

 「江戸切絵図散歩」を読むと、渋谷のほかにも、江戸の町の風景を読み取ることができます。

 東海道や中山道など五街道の起点となった二重橋の南詰から京橋、銀座へ至る道は、江戸最古の大道で、徳川家康は、この大道を中心に町割りをおこない、商業地区を設けたのだそうです。

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 「切絵図の、この大道の両側には、青物町、呉服町、元大工町、数寄屋町、檜者町、箔屋町、塗師町、鍛冶町、畳町、具足町、炭町などの町名がびっしりならび、その町名を見ただけでも、往時の繁栄ぶりが偲ばれよう」

 現在は、中央通りとなっている江戸最古の大通りについて、池波正太郎はこんなふうに書いています。

 江戸時代には、

 「銀ブラ」ならぬ、築地を歩く「築(つく)ぶら」の散策が人気だったこと
 江戸湾の海が日比谷あたりまでは入り込んでいたこと
 青山は見渡す限りの原野で、徳川家康はしばしば、ここで鷹狩りをしたこと
 さらには、桜田門外の井伊家が今の明治神宮になり、明治天皇が祀られたこと

 などもわかります。

 「江戸時代の開発は、先ず、川を掘って水運の便利をはかることから始まった。現代の開発なるものが川を埋め立てることから始まるのとは反対だったのである」

 池波正太郎のこんな言葉には、深く考えさせられます。

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まとめ

 各地の写真はもちろん、池波のスケッチも味わいがあり、本を読むのが楽しくなります。池波正太郎の「江戸切絵散歩」の本を持って、街歩きをしたら、その楽しさは一層、増すでしょう。多くの発見があるはずです。 

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