日本の皇室はまもなく新しい時代を迎えます。平成31(2019)年4月30日、現在の今上天皇が退位、翌5月1日、皇太子殿下が第126代の天皇に即位されます。これに伴い、皇太子妃雅子さまは皇后に、天皇陛下は、「上皇」に、皇后陛下は、「上皇后」にそれぞれ就かれます。202年ぶりの譲位になります。
そんな皇室への関心が高まる中、11月30日に出版されたのが、椎谷哲夫さんの著書「皇室入門」(幻冬舎新書)です。
東京新聞社会部記者として活躍した椎谷哲夫さんが5年余の宮内庁担当時代に雑誌に連載した記事を大幅に加筆修正して書き上げた力作です。丁寧に、わかりやすく書かれています。
「今回の譲位は、平成28(2016)年8月8日の今上天皇の『象徴としてのお務め』についてのビデオメッセージが契機だった。陛下は『次第に進む身体の衰えを考慮する時、これまでのように、全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが、難しくなるのではないかと案じています』などと話され、『象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことをひとえに念じ、ここに私のお気持ちをお話しいたしました。国民の理解を得られることを、切に願っています』と訴えられた」。
椎谷さんはこう書き、今上天皇のビデオメッセージに焦点をあてています。
皇室典範の皇位継承規定は崩御が前提で、ご存命中の天皇が退位して皇位を譲ることは想定していませんが、椎谷さんは、多くの国民がビデオメッセージに込められた陛下の思いを受け止めて理解したこと、政府や国会も小異を捨てて大同に就く姿勢を示したことから、「特例法」が成立することになり、幕末の文化14(1817)年の第119代光格天皇以来202年ぶりに譲位が行われることになったことを説明しています。
「時代はこの(平成の)30年で大きく変わったように見えます」。椎谷さんはこうも書いています。皇室が、国民に、より親しみやすく、近い存在になったということでしょう。
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そんな皇室に変化をもたらしたのは、今上天皇が平成元年8月の即位後初めての記者会見で掲げた新鮮なフレーズの「現代にふさわしい皇室」です。椎谷さんは、今上天皇が「現代にふさわしい皇室」を目指して、ご公務などで少しずつ新しい試みを始められたことを指摘しています。
「その一つが、国民体育大会や植樹祭などで地方へお出かけの際、休憩時間を兼ねた昼食時に、視察などに同行している地元の知事らと席を共にされることでした。少しでも地方の事情を知っておきたいという強いお気持ちからでした。昭和の時代にはなかったことでした。大膳課の料理人を同行させるという慣例もやめられました」。
「地方から皇居に来た勤労奉仕に来た人たちへの『ご会釈』もそうです。近くに寄ってなるべく多くの人たちと同じ目線で会話され、丁寧にお礼を述べられました。そうした新天皇の姿を国民が目の当たりにしたのは、本文でも触れたように平成3年夏の雲仙普賢岳噴火での被災者に対するお見舞いでのある姿でした。移動の車も県の公用車を借りられました」。
「今上天皇は皇太子時代を含め多くの時間を戦没者への慰霊に費やし被災地にも頻繁に出向かれました。人々の悲しみに寄り添い、どんな人にも、どの地域にも分け隔てなく、『公平』に接しようとの気持ちを抱き続けてこられました」。
今上天皇の掲げた「現代にふさわしい皇室」がよくわかります。
そして、本は、こうした皇室の変化をとらえたうえで、皇室制度、天皇の歴史、天皇のお務め、皇室を支える組織・制度、宮中祭祀、陵墓、伊勢神宮、皇位継承などについて詳しく解説しています。
各章はこんな構成になっています。
第1章 皇室制度と歴史
・200年ぶりの譲位
・皇室の構成と仕組み
・元号の歴史と改元
・「天皇」の歴史
第2章 天皇のお務め
・国事行為・公的行為・その他の行為
・国際親善
・皇居勤労奉仕
第3章 皇室を護り支える組織と施設
・皇室の警護(警備)
・宮内庁の組織と歴史
・皇居と宮内庁管理施設
第4章 宮中祭祀と陵墓・伊勢神宮と出雲大社
・宮中祭祀
・陵墓
・神宮(伊勢神宮)
第5章 昭和から平成、そして新たな御代へ
・昭和の終焉と平成の始まり
・明仁天皇と美智子皇后
・徳仁皇太子と雅子妃
終章 近現代の天皇と皇位継承
・光格天皇
・明治天皇
・大正天皇
・昭和天皇
・皇位継承問題
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こう見るだけでも、情報満載ですが、見出しに工夫がされており、何か、疑問が浮かんだら、それに応じて、「答え」を得ることができるようになっています。少し見出しを紹介しましょう。
・「譲位」と「退位」はどうちがうのか
・「皇太子」はなぜ空位となってしまうのか
・「象徴の地位は国民の総意に基づく」の意味
・日本最初の元号は西暦645年の「大化」
・「平成」は「修文」「正化」と競って選ばれた
・7世紀に始まった「天皇」という尊称の表記
・明治から昭和初期までの外交文書は天皇ではなく「皇帝」
・「内閣の意思で決定し天皇が形式的に実行する」国事行為
・天皇の役割は「外交」ではなく国際儀礼による親善
・京都御所の「衛士」の伝統を継ぐ皇宮警察本部の護衛官
・終戦までは「宮内省」という内閣から独立した官庁
・無血開城した江戸城は明治天皇の遷都で「皇城」に
・数々の神事が行われる宮中三殿「賢所、皇霊殿、神殿」
・山形から鹿児島まで点在する899の陵墓
・伊勢神宮は全国の神社の「心理的統合の象徴」
・111日間に及んだ昭和天皇のご闘病で取材記者も総動員
・皇位は例外なく男系男子が継承してきたという事実
まずは、本を通読するといいでしょう。そして、一度、読み終えたら、精読です。理解度が一層、深まります。
これから、新聞や雑誌、テレビなどのマスコミで、皇室に関するニュースも増えるでしょうから、そんなときに感じた疑問をもとに、もう一度、本書に戻って読んでみるといいと思います。索引が200本ほど詳細に書かれており、疑問に対する答えを探すのにとても役立ちます。見出しで該当部分を読むと、皇室が身近なものになってきます。
「皇位継承が行われようとする今、皇室とは何かを考えてみると、こそには長い歴史と伝統に裏打ちされた、時代が変わっても決して変わらないことがあることにあらためて気づかされます。本書はそうした視点も忘れず、さまざまなテーマを硬軟取り混ぜて取り上げ1冊に凝縮しました」
椎谷さんはこう書いています。
何度も読み返すため、手元に常に置いておきたい1冊です。