タリバンとは、どんな勢力?簡単にわかりやすく解説 現在のアフガンは今後どうなる?

 アフガニスタンのイスラム主義勢力タリバンが2021年8月15日、首都カブールをはじめアフガン全土を制圧し、ガニ大統領率いる親米のアフガン政権が崩壊しました。タリバンは約20年ぶりに復権します。タリバンとは、どんな勢力なのでしょうか。現在のアフガニスタンは今後どうなるかも含めて、タリバンについて簡単にわかりやすく解説しました。

タリバンとは、どんな勢力? 簡単にわかりやすく解説

タリバンとは、「イスラム神学生」という意味

 タリバンとは、パシュトゥー語で、「イスラム神学生」という意味を持っています。

 1979年からのソ連軍のアフガニスタン侵攻で、多くの難民が隣国のパキスタンに逃れました。パキスタンのイスラム原理主義集団が、難民キャンプに神学校を作り、難民の子供たちに過激なイスラム原理主義を教えました。パキスタン軍は、これらの子供たちを武装化させ、アフガニスタンに送り込むことで、アフガニスタンの支配を目指しました。

 「イスラム神学生」という言葉の背景には、こういった事情があります。パキスタンはタリバンを支援しています。

 ソ連軍は1989年にアフガニスタンから撤退しましたが、アフガニスタンでは、各勢力による内戦が激しさを増しました。タリバンは1994年、アフガニスタンで設立されました。南部カンダハルの制圧を手始めに、次第に支配地域を増やし、1996年9月、全土をほぼ制圧し、政権を樹立しました。

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タリバン政権崩壊

 しかし、2001年9月11日、アメリカでは、中枢同時テロが起きました。ブッシュ米政権は、アフガニスタン国内にいたウサマ・ビンラディンを最重要容疑者として、身柄の引き渡しをタリバン政権に求めましたが、タリバン政権はこれを拒否しました。このため、米軍は、首都カブールなどに空爆を実施、タリバンは2001年12月、最後の拠点のカンダハルを撤退し、政権が崩壊しました。

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タリバンの最高指導者

 こうした中で、タリバンの最高指導者は、

 ムハマンド・オマル師
    ↓
 アクタル・マンスール師
    ↓
 ハイバトゥヲ・アクンザダ師

 となってきました。

 現在のハイバトゥヲ・アクンサダ師は2016年5月から最高指導者の地位に就いています。カンダハル出身のイスラム法学者で、宗教教育に関わるとともに、タリバン内でも自らの指導力を高めてきました。

 ハイバトゥヲ・アクンサダ師が率いるタリバンは2018年から、トランプ米政権と駐留米軍の撤退問題を協議し、2020年2月、アメリカと和平合意に達しました。駐留米軍は8月末までに撤収することになっています。

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現在のアフガンは今後どうなる?

 では、現在のアフガンは今後どうなるのでしょうか。主に、2つの懸念が出ています。

イスラム原理主義に基づいた社会に戻る懸念

 タリバン政権時代の5年間は、イスラム原理主義に基づいた社会作りが行われました。

 男性は、あごひげを伸ばさなくてはならない(剃ってはいけない)
 女性は、教育を受けてはいけない
 女性は、顔を厚いベールで覆う服「ブルカ」を着なくてはならない
 テレビや音楽、映画、ダンスを禁止する
 偶像を崇拝してはいけない
 民主的な選挙は行わない
 毎日5回の礼拝は欠かしてはならない
 コーランは暗唱しなくてはならない
 殺人罪、姦通罪を犯した者は公開処刑する

 などの措置です。

 タリバン後のアフガン政権では、これらの措置が廃止あるいは緩和されただけに、イスラム原理主義に基づいた社会に戻るのではないかとする懸念が早くもアフガニスタン国民の間に強まっています。

 こうした懸念の中、タリバンの報道担当の幹部は8月17日、記者会見し、女性の就労や教育、メディア活動などを認める方針を示しました。ただ、「イスラム法の認める範囲で」との条件をつけており、どこまで、これら女性の就労などが守られるかはわからない状況になっています。

 米欧の国際社会は、アフガニスタンでの人権侵害でタリバン政権を批判することになると見られます。しかし、タリバンは、イスラム原理主義に基づく社会作りを堅持、米欧とは全く異なる価値観を持っているため、国際社会による批判に耳を貸すことはありそうもありません。

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アフガニスタンが再び、テロの温床になるとの懸念 

 アフガニスタンには、国際テロ組織のアル・カーイダやイスラム国(IS)の拠点があり、戦闘員がいます。タリバンは、副指導者のひとりであるハッカニ師をリーダーとするテロ組織「ハッカーニ・ネットワーク」を持っていますが、この「ハッカーニ・ネットワーク」はアル・カーイダと親密な関係にあることがよく知られています。

 また、アフガニスタンの周辺国の

 アル・カーイダ組織(イエメン、アルジェリア、マリ) 
 アルシャバーブ(ソマリア)
 ヌスラ戦線(シリア)

 などのイスラム過激派がアフガニスタンで、新たな拠点を築く恐れもあります。イスラム革命のため、米欧などでテロを起こすとの見方も出ています。

 タリバンは、米国との和平合意で、「アフガニスタンをテロ組織に使わせることはない」として、アフガニスタンをテロの温床にしないと断言していますが、どこまで守られるかは不透明です。

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まとめ

 タリバンではこれまで、各武装グループが勢力争いをしてきましたが、ハイバトゥヲ・アクンサダ師は、タリバンを束ねる力があるとして評価されています。

 また、タリバン政権崩壊の原因は、厳格過ぎるイスラム原理主義のため人心掌握できなかったとする反省も若い世代には出てきています。

 ただ、タリバンは今回、米国との和平合意に盛り込まれた停戦を無視して全土での武力制圧を進めました。タリバン内の「新しい変化」が果たして、国民に沿った安定的な政権を築けるかは全く、不透明となっています。

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