2015年2月から続くイエメン内戦が、泥沼化しています。対立の構図は当初、暫定政府軍対反政府武装勢力で、これに隣国が代理戦争の形で介入するものでしたが、新たに、暫定政府軍の中でも対立が強まっているためです。
イエメン内戦は、なぜ発生したのか。また、対立の構図は現在、どうなっているのか。難民数、死者数を含めて、わかりやすく解説しました。(トップのイラストは、いらすとやのものです)。
イエメン内戦は、なぜ発生したのか
北アフリカ、中東地域で発生した民主化運動の「アラブの春」がイエメン内戦発生に大きく影響しています。
2010年12月、北アフリカのチュニジアで、長期独裁政権の打倒を目指す運動がインターネットによって一気に広がり、ベンアリ大統領は退陣しました。「ジャスミン革命」と呼ばれています。
この民主化要求運動は、中東地域にも次第に波及しました。
エジプトでは2011年2月、30年以上独裁体制を率いてきたムバラク政権が崩壊しました。
リビアでは2011年8月、約42年間、独裁体制にあったカダフィ大佐の政権が退陣しました。
シリアでは、1970年以降、軍人だったハフェズ・アサド大統領、その次男のバッシャール・アサド大統領親子が政権の座にありましたが、2011年3月15日、民主化要求デモが起き、アサド政権がこのデモを武力制圧したことで、内戦に発展しました。
この「アラブの春」のドミノ現象は、イエメンにも及びました。
2015年1月、イスラム教シーア派のフーシが大統領宮殿を制圧して、翌2月、政権掌握を宣言しました。これに対して、イスラム教スンニ派で構成されるサウジアラビアなどのアラブ連盟が、ハディ暫定大統領の要請に応じて軍事介入し、内戦になりました。
スポンサードリンク
中古価格 |
イエメン内戦の対立構図は?
イエメン内戦は、宗教対立の構図になっています。
イスラム教スンニ派の暫定政府軍
✖
イスラム教シーア派の武装勢力フーシ
が対立しています。中東でよく見られるスンニ派とシーア派の敵対関係のひとつとなっています。
イエメン内戦の複雑化
この宗教対立を激化させたのが、大国の軍事介入です。
イスラム教スンニ派の暫定政府軍 ⇐ 支援 サウジアラビア
✖
イスラム教シーア派の武装勢力フーシ ⇐ 支援 中東地域のシーア派大国イラン
サウジアラビアがイエメンの暫定政府軍を軍事支援、これに対して、中東地域のシーア派大国イランが、イエメンの武装勢力フーシを支援し、内戦を複雑化させることになりました。両国は2016年1月に国交を断絶しました。
さらに、この構図に、米国が絡んでいます。米国は、核問題などでイランと敵対する一方、サウジアラビアには軍事、経済関係を強める同盟国として支援しています。
イエメン内戦の混迷化
イエメン南部の分離独立を目指す政治勢力が2020年春、アデンで自治を宣言しました。アデンは、暫定政府軍の拠点でもあり、暫定政府軍での内部対立が鮮明化しました。
この結果、イエメン内戦は、混迷を一層深めることになりました。
イエメン内戦の犠牲者
内戦は、国民を直撃します。死者は約1万人に及び、全国民約2900万人のうち、難民、避難民は約300万人に達しました。数百万人が飢餓に苦しんでいます。
イラン関与?
イエメンの武装勢力フーシは2019年9月中旬、無人機10機で、サウジアラビアのクライス、アブカイクにある石油施設を攻撃したとの声明を出しています。この声明によると、フーシはイエメンから北の方向にあるサウジアラビアを攻撃したことになりますが、ポンぺオ米国務長官は、「攻撃はイエメンから行われていない」との見方を示しています。
米CNNによると、無人機は、米国やサウジの防空網があるペルシャ湾を通らず、クウェート、イラク上空へと迂回して、サウジの石油施設を攻撃したと報じています。イランから攻撃が行われたとする分析です。
イランが攻撃に関与したかどうかをめぐって、今後、大きな問題に発展しそうです。
イエメン内戦のまとめ
イエメン内戦をこれまで見て来ると、同じような対立構図のある内戦が中東で浮かび上がってきます。シリア内戦です。2011年に勃発したシリア内戦では、イランがアサド政権を、サウジアラビアが反政府勢力を支援しています。宗派対立に、大国が代理戦争で介入する構図です。
イエメン内戦にシリア内戦。イランとサウジアラビアはともに、中東地域で大国として覇権を築こうと競い合っています。中東地域がどうなるか、宗教と代理戦争がこれを読み解くキーワードとなっていることがわかります。
◇
シリア内戦についても記事を書いています。
死者数が約37万人となったシリア内戦はなぜ起き、現状はどうなっているのでしょうか。また、死者とともに難民数も増大する中で、解決策はあるのでしょうか。2019年3月15日で9年目に入ったシリア内戦について調べてみました。・・・続きはこちらです。