北朝鮮のミサイル技術はどこまで進展? ミサイルの種類、射程は? 日本への脅威は深まる

 北朝鮮がミサイル発射を繰り返しています。2016年は24回、今年2017年は14回というハイペースです。北朝鮮のミサイル技術はどこまで進展しているのでしょうか。ミサイルの種類、射程、さらには、日本への脅威はどうなるかなども含めて調べてみました。

 ◇新型弾道ミサイル「火星12」

 このなかでも注目されているのは、5月14日に発射した新型弾道ミサイル「火星12」です。中距離弾道ミサイル「ムスダン」の性能を向上させ、米本土も狙うことができる大陸間弾道ミサイル(ICBM)に大きく近づいたと見られているからです。

 また、最大2111.5キロメートルの高度まで打ち上げられ、788キロメートル飛びました。高い高度まで到達したのは、「ロフテッド軌道」という新しい技術が用いられたためです。

 ムスダンは射程約2500キロメートル~4000キロメートルですが、火星12を通常の軌道で発射すると、射程は約4500キロメートル~約5000キロメートルに達する、と韓国国防省は分析しています。一部のムスダンは、米空軍アンダーセン基地がある米グアムに到達できる能力がありましたが、火星12が完成すれば、グアムが完全に、北朝鮮のミサイルの射程内に入ることになります。

 また、「ロフテッド軌道」で打ち上げたことで、火星12は日本海にマッハ15(音速の15倍)の速度で着弾したと見られています。ムスダンの下降速度はマッハ10~15、ICBMの下降速度は24マッハですから、火星12は一層、ICBMの下降速度に近づきました。下降速度が増すほどに、迎撃が難しくなってきます。

 在韓米軍の最新鋭ミサイル防御システム「最終段階高高度地域防衛(THAAD)はマッハ14まで迎撃可能ですが、日本に配備されている地対空誘導弾「PAC3」はマッハ7程度までしか対応できません。

 これだけでも、日本への脅威は大幅に増したことがわかります。

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 ◇北朝鮮のミサイルの種類と、その射程

 北朝鮮は1970年代からミサイル開発に取り組み、短距離、中距離、長距離のミサイルを次々に完成させてきました。実戦配備、開発中という形で、北朝鮮のミサイルを分類すると、以下のようになります。

 【実戦配備】

 ■短距離弾道ミサイル

 スカッドC 射程約500キロ。標的は韓国。
 
 ■中距離弾道ミサイル

 スカッドER 射程約1000キロ。標的は、西日本の基地。
 ノドン   射程約1300キロ。標的は、横田基地や横須賀基地など日本国内の米軍基地。
 ムスダン(北朝鮮での呼び方は火星10号)
       射程約2500キロから4000キロ。標的は、米領グアムの米空軍基地。
 
 北朝鮮が、これらの短距離、中距離弾道ミサイルで、日本や韓国を攻撃する能力をすでに保持していることがわかります。

 【開発中】

 ■中・長距離弾道ミサイル

 北極星2型 射程約2000キロ。標的は、横田基地や横須賀基地など日本国内の米軍基地。固体燃料を使用。 

 ■長距離弾道ミサイル

 テポドン2号改良型 射程約1万キロ。標的は米国本土。
 
 ■潜水艦発射型(SLBM)

 北極星 射程約1000キロ。ロシア製SLBMをもとに開発、2016年8月24日、約500キロ飛行。飛行試験に初成功しました。
 
 ■ICBM「KN08」

 射程約7000キロから9500キロ。標的は米本土。
 
 ◇ミサイル技術は?

 北朝鮮は、さまざまなミサイルを開発してきましたが、ミサイル技術も進展しています。命中精度向上、長距離化、ロフテッド軌道とともに、専門家が注目している技術に、固体燃料の開発があります。

 北朝鮮は今年2月12日地対地中長距離弾道ミサイル「北極星2型」を日本海側に発射しましたが、この時に、固体燃料が使われました。

 通常、ミサイル発射には液体燃料が使われることが多いのですが、固体燃料は液体燃料に比べて、10分程度の短時間で発射できるため、偵察衛星などで事前に発見するのが難しくなります。液体燃料に比べて軽量化されていることから、飛行距離を伸ばすこともできるという利点もあります。

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 ◇北朝鮮の今後の課題

 米国本土を射程にとらえた大陸間弾道ミサイル(ICBM)を早期に実戦配備することが今後の課題になります。金正恩・朝鮮労働党委員長は2017年1月1日の「新年の辞」で、ICBMの発射実験準備が「最終段階に入った」と述べています。ICBMの実戦配備は、米国との大きな交渉カードにしたいだけに、すべてを言葉通りに受け取るわけにはいきませんが、北朝鮮のミサイル開発が進展していることはわかります。

 北朝鮮がICBMを完成させるには、

 ・ミサイルに搭載する核弾頭の小型化をどう図るか
 ・大気圏再突入の際、核弾頭を熱や衝撃から保護する技術をどう確保するか、

 の2点が必要になってきます。

 核弾頭が重ければ、ICBMに搭載したとしても、射程内の目標まで到達することはできません。韓国や米国には、核弾頭の小型化には高度な技術を要することから、北朝鮮はまだ、核弾頭の小型化という技術は手にしていない、との見方も強くありますが、一部専門家は、北朝鮮は一部の中距離弾道ミサイルに関しては、核弾頭の小型化を確保したと分析しています。

 北朝鮮が技術の精度を高めつつあるのは確かでしょう。

 弾道ミサイルはいったん大気圏外に出た後、再び、大気圏に再突入しますが、この際、弾道ミサイルは、7000度にも達する高熱や、衝撃に直面します。核弾頭をこの高熱や衝撃から保護しなくてはなりませんが、北朝鮮はまだ、この技術を確保していません。ICBMを完成させるうえでの最後の難関になっています。

 ◇核開発

 北朝鮮は、弾道ミサイルとともに、核開発も進めています。2006年10月、初の地下核実験を実施して以来、昨年2016年には、1月と9月の2回、核実験を実施、これで、核実験は5回に及びました。

 この状況の中で懸念されるのは、北朝鮮が孤立化を深めていることです。北朝鮮は2003年1月、核拡散防止条約(NPT)を脱退しました。同年8月には、核問題を協議するため、北朝鮮、米国、中国、韓国、ロシア、日本が参加して、6か国協議がスタートしましたが、この協議も2008年以来、中断したままです。

 国際社会は、北朝鮮に経済制裁を科していますが、北朝鮮は、国際社会の警告を無視したままです。弾道ミサイルと核開発にまい進する北朝鮮の危険度が浮かび上がってきます。

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