フランス・マクロン大統領の政策は? 反政権の「黄色いベスト運動」でどう変化 プロフィールも

 フランスのエマニュエル・マクロン大統領(任期5年)が、2018年11月から、週末の反政権デモ「黄色いベスト運動」に直面しています。2017年5月に就任した大統領はどんな政策を掲げ、この反政権デモを受けて、どう修正しようとしているのでしょうか。大統領は2019年5月をめどに、自身の政策の是非を問う国民投票の実施も検討し始めました。

 ◇政策 経済改革

 マクロン大統領が2019年5月で大統領就任2年となるのを前に、経済改革に苦悩し始めたのが大きな特徴です。反政権デモ「黄色いベスト運動」の沈静化を目指して、生活支援策を相次いで打ち出しました。以下のような政策です。

 ・2019年の燃料税引き上げ停止
 ・2019年1月から、最低賃金を1か月100ユーロ引き上げ
 ・2019年1月から、給与残業分は非課税
 ・年金生活者に対する増税の一部停止

  マクロン大統領はこれまで、

 ・法人税率を現在の35%から25%に引き下げ
 ・週35時間労働を柔軟に運用
 ・金融資産に対する課税廃止
 ・国鉄職員に対する特権廃止

 などを実施して、企業の国際競争力アップ、経済の活性化を目指してきましたが、これらの政策が低所得者層などからの反発を招き、反政権デモが沈静化しないのを受けた結果です。経済政策は大きく軌道修正を迫られる形になりました。

 ただ、懸念も出て来ています。

 欧州連合(EU)は、EU加盟国に対して、財政赤字を国内総生産(GDP)の3%以内とするよう求めています。フランスは2008年のリーマンショック以降、2016年まで、このルールに違反してきましたが、マクロン大統領が財政改革に取り組んだ結果、2017年、2018年と3%以内に抑えました。

 しかし、今回、生活支援策を打ち出したことで、2019年は再び、3%を上回る恐れが出てきています。経済改革の停滞です。

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 ◇政策 EU重視

 マクロン大統領は就任以来、「フランスは欧州とともに成長する」「欧州があってこそ、フランスの繁栄、未来がある」と度々、発言し、EUを重視していこうとする姿勢を強調してきました。以下のような政策です。 

 ・EU財政統合の推進
 
 EU域内では、一部の加盟国を除いて、統一通貨ユーロを導入していますが、この通貨統合をさらに進め、EU全体で共通予算を組むことを提言しています。現在のEU予算は、分担金や農業補助金などが柱となっていますが、さらに、加盟国の負担を増やそうとするものです。財政統合にまで踏み込んだ大胆な提言と言えます。EUの金融政策は欧州中央銀行(ECB)で行うことも訴えています。

 ・EUシェンゲン協定の維持

 EUは、シェンゲン協定(1995年発効)で、域内の出入国審査を廃止し、ヒト、モノ、カネの域内自由往来を定めていますが、この協定を維持していくことを主張しています。シェンゲン協定は、EUの基本方針の一つで、ここでも、マクロン氏の親EUの姿勢が表れています。

 なお、英国は、移民規制の観点から、このシェンゲン協定に反対し、EU離脱を決める一因になりました。

 ・仏独連携の推進

 拡大と深化を遂げてきた欧州統合は、フランスとドイツがけん引役となって進めてきました。マクロン氏は、仏独でさらに欧州統合を進めていく方針を示しています。

 ・EU防衛政策強化 

 EUは、紛争地域で展開する即応部隊の創設や、加盟国の防衛力強化などを目指した欧州防衛庁(EDA)の設置などを決めていますが、マクロン氏は、さらに、EUの防衛政策を強化するとしています。

 ・移民、難民の受け入れ

 主に、内戦中のシリアから難民、移民がEU域内に流入していますが、マクロン氏は、人道上、必要となる難民は受け入れるべき、との立場に立っています。難民申請については、迅速に対応するよう提言しています。

 ・テロ対策

 情報共有などで欧州各国と協力することを表明するとともに、警察官を1万人増員するとしています。フランスの諜報機関を強化することにもしています。

 ただ、これらの政策は、EU統一の政策となるだけに時間がかかります。マクロン大統領は国内の経済改革で指導力を低下させており、これらの政策は実現に向けて前進していないのが現実です。

 ◇仏独連携

 こうした中で注目されるのが、2019年1月22日、マクロン大統領と、ドイツのメルケル首相が、欧州統合の強化に向けた新条約に調印したことです。これまで、欧州統合は、仏独が推進力になって進展してきました。この歴史をふまえ、さらに、仏独が協力して、さらに欧州統合を進めようとする姿勢を示したものです。協力事項は、以下のようになっています。

 ・共通の外交、防衛政策を目指す。
 ・ドイツの国連安保理常任理事国入りを推進する。
 ・通貨同盟を強化する。
 ・両国で経済専門家による委員会を設置する。
 ・人口知能(AI)を共同研究する。

 マクロン大統領がこれまでに掲げた政策と共通しているのがわかります。ただ、メルケル首相も指導力を低下させており、仏独連携が進展するかは不透明です。

 ◇ ◇ ◇

 マクロン氏の横顔(プロフィール)

 エマニュエル・マクロン(Emmanuel Macron)氏

 1977年12月 北部ソンム県アミアン生まれ。
 39歳。 
 父は医師で大学教授(神経学)、母も医師。
 パリ第10大学で、哲学(論文はヘーゲル)と政治学を学び、その後、エリート官僚養成校の国立行政学院(ENA)を卒業しました。
 国立行政学院卒業後は、会計検査院で働き、外資系のロスチャイルド投資銀行に転職しました。
 32歳で同銀行の共同経営者になり、巨額の富を得たとされています。
 趣味はピアノ演奏。
 妻は、高校時代の恩師だったブリジットさん(64)で、年齢の差がたびたび話題になっています。

  政治

 2006年、社会党に入党。
 2007年 大統領選で、社会党の女性候補ロワイヤル氏を応援しました。
 2012年、オランド大統領に招かれて、大統領府(エリゼ宮)入りし、オランド大統領の側近として活躍しました。
 2014年、第2次バルス内閣で、経済相に抜擢され、2016年まで務めました。
       選挙の経験はありません。

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フランスの政治制度 (制度のメカニズム)

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  マクロン法

 経済相として取り組んだもののひとつに、規制緩和がありました。デパートの日曜営業の拡大、長距離バス路線の自由化などを提言しました。一連の規制緩和は、オランド政権の経済改革の主要部分となった「経済の成長と活性化のための法案」で、通称、「マクロン法」と呼ばれました。ただ、労組を重視する中道左派・社会党では、規制緩和に反対する議員、党員も多く、マクロン氏の規制緩和は思うように進みませんでした。

 「共和国前進」

 2016年4月、自らの政治組織「前進」を創設しました。同年8月には、経済相を辞任し、大統領選に向けて準備を進めました。前進は、現在、共和国前進となっています。

 2017年春の大統領選は以下の通りです。

 ◇第1回投票

 4月23日に行われた第1回投票は、内務省の集計(開票率100%)によると、以下のような結果になりました。

 得票率
 マクロン氏23.7%
 ルペン氏 21.5%
 フィヨン氏19.9%
 メランション氏19.6%
 アモン氏 6.3%

 過半数を獲得した候補がおらず、マクロン氏、ルペン氏の上位2人が5月7日の決選投票に進むことになりました。現在のオランド大統領(社会党)、その前のサルコジ大統領(国民運動連合、現在の共和党)など、フランスでは歴代、中道左派と中道右派の2大政党が大統領を担ってきましたが、2017年の大統領選では、この2大政党の候補、アモン氏(社会党)、フィヨン氏(共和党)が上位2人に残れず、マクロン氏、ルペン氏に敗れました。

 英国のEU離脱や、米国でのトランプ大統領誕生などでも示されたように、フランスでも、既成政治への不信感が作用し、若さを売り物の政治刷新を訴えるマクロン氏、反EUを訴えるルペン氏が躍進することになりました。

 ◇決選投票の結果

 最終結果は以下のようになりました。

 マクロン氏 66.10%
 ルペン氏  33.90%

 マクロン氏が大差で、ルペン氏を破りました。

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