イギリスのジョンソン保守党政権が、英国のEU(欧州連合)離脱問題をめぐって窮地に陥っています。離脱期限の2019年10月31日には、合意なき離脱も辞さないとする強硬姿勢をなおも堅持しているものの、政権の弱体化が進み、有効な打開策が見いだせなくなっているためです。
◇保守党過半数割れ
288議席--。この数字が、与党・保守党の苦境を如実に物語っています。下院650議席のうち、保守党の議席は、過半数を大幅に下回って、288議席にまで落ち込みました。閣外協力の民主統一党の10議席を加えても、過半数には達しません。
メイ前首相時代の313議席からさらに落ち込みました。
その主な要因となったのが、21人の保守党下院議員の除名です。21人は、最大野党・労働党などが9月初旬に提案したEU離脱延期法案に同意したため、党の方針に造反したとして保守党から除名されました。
この法案は、労働党などの賛成多数(賛成327、反対299)によって可決されたもので、EUと合意した離脱協定案を英議会が10月19日までに承認できない場合、離脱期限を2020年1月31日までに延長するようEUに要請することをジョンソン首相に義務付けています。
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除名されたのは、
フィリップ・ハモンド氏
ケネス・クラーク氏
ニコラス・ソームズ氏
らで、これまでの保守党を中心になって支え、何度も閣僚を務めた保守党重鎮も多く含まれています。
ジョンソン首相の実弟で、閣外相を務めたジョー・ジョンソン氏も、「家族への忠誠と、国益の間で悩み抜いてきた」として、下院議員を辞職しました。また、21人を除名したことに抗議して、重要閣僚のラッド労働・年金相も辞任しました。
「英保守党は今、革命ともいえる大変革期にある」と、英エコノミスト誌は指摘しています。
イギリスにとって、この保守党の変革はプラスに作用するのでしょうか、それとも、マイナスに作用するのでしょうか。長期的な展望はまだ、わかりませんが、現時点では、プラスに作用する状況にはありそうもありません。
◇合意なき離脱も
2019年7月末に就任したジョンソン首相は、2019年10月末、EUと合意があろうがなかろうが、EUを離脱することを公約の第一に掲げています。EU離脱延期法案は、10月末離脱を掲げるジョンソン政権と真っ向から対立するものとなっています。
このため、ジョンソン首相は2回にわたって、10月15日に総選挙を行う動議を提出しました。
保守党が33%の支持率を獲得、野党・労働党に10ポイント差をつけているため、総選挙で勝利して、先のEU離脱延期法案を否決しようとしました。しかし、2回とも、動議可決に必要な下院(650議席)の3分の2(434議席)以上=注:議会任期固定法=に及ばず、否決されました。
◇ジョンソン首相の選択肢
ジョンソン首相が今後、取り得る選択肢は以下の通りです。
➀EU離脱期限の延長をEU側に要請する。
➁10月末までに、EU側と交渉し、合意したうえで離脱する。
➂何の取り決めもなくEUを離脱する。
➀について、ジョンソン首相は、「延期するなら、死んだ方がまし」と、総選挙実施法案が否決された直後に発言しています。先に述べたように、2019年末にEUを離脱することが政権最大の公約であり、離脱延期法案に基づいて、EU側に延期要請を行うかどうかは不透明になっています。
7月末の政権発足後、EU側とは詳細な交渉は行っていないとの報道もあります。
➁についても、英領北アイルランドとアイルランドの国境管理問題がネックになって、EUとの合意はできそうもありません。メイ前首相がEUと結んだEU離脱協定案では
・アイルランド国境管理問題の混乱を避けるため、2020年末までを「移行期間」とし、その間、英国はEUの単一市場・関税同盟に残留する。
・アイルランド国境管理問題が上記の「移行期間」終了までに解決できない場合は、「安全策」として、英国が引き続き、EUの単一市場・関税同盟に残るか、「移行期間」延長(最長2年)を認める。
が骨子となっていますが、ジョンソン首相は、「英国の主権が損なわれる」として再三、この安全策に反対してきました。
EU側はこの安全策を含め、再交渉には応じない姿勢を示しています。交渉が行われたとしても、この問題で、ジョンソン政権とEUの主張は平行線をたどりそうです。
➂については、ジョンソン首相が、議会の離脱延期要請を無視して、合意なき離脱を推し進めるケースです。議会民主主義を否定する動きであり、政治的混乱は必至です。野党などが法的訴訟に訴えることも考えられます。
◇まとめ
こうして見て来ると、ジョンソン首相が苦境に立り、今後、イギリス政局は混迷化しそうなことがわかります。少数与党では、今の状況を覆すだけの政治力がありません。英下院は10月13日まで閉会されますが、ジョンソン首相がどう、EUと交渉するのか、下院の意思を尊重するのか、注目されます。
*議会任期固定法
2011年に制定された法案で、首相の解散権を廃止しました。5年の任期が満了せずに、下院を解散するには、下院の3分の2が必要であることを規定しています。前回の総選挙は2017年に行われており、2022年の任期満了前に総選挙を行うには、この固定法の規定を満たす必要があります。
◇
合意なき離脱についても、記事を書いています。
イギリス政局は、EU(欧州連合)との間の離脱協定案が英議会(下院)で3回否決された結果、その責任を取って、テレサ・メイ首相(保守党党首)が辞任、後任党首を選ぶ選挙が行われ、ボリス・ジョンソン前外相が党首に選ばれました、同氏は、首相に就任しました。
ジョンソン氏は10月末の離脱時期に向けて、「合意なき離脱」も辞さない姿勢を示しています。下院構成から、そのまま、すんなりと、「合意なき離脱」になるとは限りませんが、「合意なき離脱」は、何の条件や規定もなくEUから離脱するものです。
具体的に、どんな状態を指すのでしょうか。経済的・社会的影響も含めて探ってみました。・・・続きはこちらです。