英国のEU離脱問題 ハードブレグジットかソフトブレグジットか 今後、EUとの交渉はどうなるか

 2016年6月の国民投票で、欧州連合(EU)からの離脱を決めた英国は今後どう、EUと離脱交渉を進めていくのでしょうか。EU離脱決定の結果、「英国(Britain)」と「離脱(exit)」からできた新語「ブレグジット」から、その手法を巡って、「ハードブレグジット」か「ソフトブレグジット」かのどちらを取るかの議論が高まってきました。ハードブレグジット、ソフトブレグジットとは何でしょうか。ハードブレグジット、ソフトブレグジットの違いから、英国の今後の展望を探ってみました。

 ハードブレグジットとは?

 離脱強硬論を指します。急増するEU域内からの移民流入制限することを優先し、無関税で輸出入できるEU単一市場へのアクセスを断念する考え方です。英国は伝統的にEUの欧州統合に消極的で、EUの共通通貨ユーロに参加せずポンドを使用するなどEUとは距離を置いてきましたが、EU離脱を決めた国民投票を機に、EU懐疑論がさらに強まったと言えます。

 テレーサ・メイ首相は10月初旬の与党・保守党大会で、2017年3月末までにEUに離脱を通告することを表明、政策決定の自由を取り戻すことを強調しました。EUからの政策指示を受けない政治の推進です。ビジネスへの影響には配慮するものの、EUとの交渉時期を明確にする中で、ハードブレグジットに傾いたものとして受け止める意見が大勢を占めてきました。
 保守党内では、ジョンソン外相、デービス離脱相らが、このハードブレグジットを支持しています。

 ソフトブレグジットとは?

 このハードブレグジットに対して、移民流入は一定制限するものの、同時に、域内無関税となるEU単一市場への参加も継続しようとする考え方です。英国が全輸出の4割を占めるEU単一市場に参加できなくなると、1年で660億ポンド(約8兆4000億円)を失う(英財務省)、国内総生産(GDP)がEU離脱後2年間で3.6〜6%下がる(英内閣)など、経済的打撃を受けることから、EU離脱の影響を極力、避けようとするものです。一部には、EU単一市場に留まるためには、移民政策についてEUから指示も受けるべきとする意見もあります。

 EU離脱を支持する人々の間では、このソフトブレグジットが過半数より少し多くなっています。また、保守党内では、ハモンド財務相らがこのソフトブレグジットを支持しています。

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英国離脱EUの衝撃 週刊エコノミストebooks


 人、モノ、カネの自由移動がEUの基本原則

 EUは、人、モノ、カネの域内自由移動を単一市場の基本原則としており、英国のソフトブレグジットは受け入れがたいものになっています。人(移民)を制限する一方、モノ、カネの移動は認めるという英国の姿勢は、EUの基本原則と矛盾するという批判です。

 ドイツのメルケル首相は、「単一市場残留には移民受け入れが不可欠。いいとこ取りは容認できない」と発言し、移民流入制限と単一市場参加継続は同時に成り立たないとの方針を示しています。トゥスク欧州理事会常任議長(EU大統領)も、「ソフトブレグジットは意味がない」としたうえで、「英国のシナリオは、ハードブレグジットか、離脱断念しかない」と述べています。

 まとめ

 EUから離脱するものの、EUの単一市場には参加し続けるという英国のソフトブレグジットがいかに困難なものかわかるでしょう。EUの根幹に触れる問題になるからです。EU離脱の手続きを定めたリスボン条約によると、EUへの離脱通告後に始まる交渉は原則2年で、2019年にも離脱が決まる手順ですが、今後の交渉は紛糾しそうです。
 
また、英国の高等法院は11月3日、メイ首相EUに対して、離脱交渉開始を正式通告する前に議会の承認を受ける必要があるとの判断をしましました。メイ首相は議会の承認は必要ないとして、最高裁に上告しましたが、最高裁が議会承認が必要と判断した場合は、EU残留を支持する議員が下院には多く、再度、EU離脱か残留かの議論も高まりそうです。EUとの交渉開始が遅れる懸念も出てきます。

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迷走するイギリス―― EU離脱と欧州の危機

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 ブレグジットなどについては以下の記事も書いています。

 イギリスは6月23日の国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を決めました。この中で、「Brexit(ブレグジット)」や、「Bregret(ブレグレット)」などの造語が新しく生まれています。新語を通して、現状と今後の展望を考えてみました。

 Brexit(ブレグジット)

 Britain(英国)と、Exit(離脱)を組み合わせた造語です。まさに、英国のEU離脱を表現した新語で、英国は国民投票の結果、離脱51.9%。残留48.1%で、EUからの離脱を決定しました。1993年の欧州連合(EU)発足以来、中・東欧諸国などへの拡大を続けてきたEUにとって、初めての離脱で、EU加盟国や国際社会に大きな衝撃を与えました。

 Bregret(ブレグレット)

 Britain(英国)と、Regret(後悔)を組み合わせた造語です。英国では6月23日の国民投票まで、離脱、残留派が拮抗していました。国民投票後もEU残留を望む人々や、EU離脱に一票を投じたものの、それを後悔する人々も多く、離脱決定を後悔する動きを表現しています。国民投票のやり直しを求める署名運動も高まっています。スコットランド、ロンドン市にはEU残留を望む人々も多く、しばらく、英国政局は分裂の危機を含みながら、混乱が続きそうです。・・・続きはこちらです。

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