2019年3月3日更新
米国と北朝鮮の2回目の首脳会議は2月27、28日、ベトナム・ハノイで開かれましたが、北朝鮮の非核化について合意できず、決裂しました。北朝鮮が、寧辺(ニョンビョン)の核施設を廃棄するとして、制裁解除を求めたのに対して、米国が、核の廃棄が十分でないとして、北朝鮮の要求を拒否したためです。
北朝鮮の非核化は実現するのでしょうか。この中で注目されている非核化プロセスのひとつに、リビア方式があります。リビア方式とはどんな非核化のプロセスなのか探ってみました。
◇リビア方式とは?
中東のリビアで行われた非核化のプロセスを指します。
リビアのカダフィ独裁政権をめぐっては長年、核兵器などの大量破壊兵器を開発しているのではないかとの疑惑がありましたが、同政権は2003年12月、米国のブッシュ(子)政権や英国のブレア政権と秘密交渉した結果、非核化宣言を行いました。
1980年代から90年代にかけて、核兵器やミサイルの開発計画を推進していたことを認め、即時・無条件にこれらの開発を停止することを宣言しました。
当時、突然の開発停止発表に国際社会は大いに驚きました。
カダフィ政権は、国際原子力機関(IAEA)や米国による査察に応じるとともに、核兵器やミサイル開発計画に関する機器(ウラン濃縮のための遠心分離機など)や技術、資料(設計図など)を米国に搬出することを認めました。
米国はリビアの核兵器やミサイルを無力化し、核兵器などの開発の完全放棄を確認した結果、2004年9月、制裁解除に応じました。2006年5月には、国交も回復、同年6月、テロ支援国家指定も解除しました。
まずは、核兵器などを完全放棄させ、非核化を実現する。そのうえで、制裁解除に応じる――というのがリビア方式の最大の狙いです。
◇米政権でリビア方式を主張しているのは?
保守強硬派のボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)です。
リビアの大量破壊兵器計画の放棄では、ボルトン氏は当時、安全保障担当の国務次官として、このプロジェクトを主導していました。ボルトン大統領補佐官は、北朝鮮の核問題でも、完全放棄、そして、制裁解除が有効として、再三、マスコミなどに、このリビア方式の適用を訴えています。
ボルトン大統領補佐官は、完全な非核化について、「(制裁解除などの)見返りの前に行わなければならない」と述べています。
◇北朝鮮の立場は?
北朝鮮はこのリビア方式とは違い、段階的、同時並行的に、核兵器やミサイルを廃棄する方式を主張しています。この段階的、同時並行的なプロセスの中で、制裁解除、国家体制保証も進めていこうという立場です。
韓国や中国も、北朝鮮の立場を支持しています。
完全な非核化、そして、制裁解除というリビア方式では、カダフィ政権が倒れ、カダフィ大統領が殺害されました。北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長は、完全な非核化が政権の基盤を揺るがし、政権の崩壊、さらには、自身の身が危険にさらされるという事態になりかねないと懸念しています。
リビア方式に難色を示す最大の理由です。
◇完全放棄か段階的、同時並行的放棄か
こうして見ると、米国と北朝鮮の立場が真っ向から対立していることがわかります。
しかも、北朝鮮の場合は、核兵器などを一部完成させており、ミサイルも含めて放棄プロセスがより複雑になりそうです。初期開発段階だったリビアとは大きく異なります。
核兵器だけでなく、弾道ミサイルや、生物・化学兵器もあります。機器、資料は大量にあります。また、非核化では、ウラン濃縮に使う遠心分離機の除去、核施設への査察受け入れなどについても協議していかなくてはなりません。
◇トランプ大統領は?
トランプ大統領は、このリビア方式を否定しています。米ホワイトハウス報道官も、「リビア方式は議論されていない」と語っています。
完全な非核化を求める米国に対して、北朝鮮が反発し始めており、トランプ発言などは米側が北朝鮮に配慮したものとみられています。ただ、米国の基本方針は、完全な非核化であり、リビア方式にとても近いものです。今後、米国と北朝鮮の協議は、妥協点を探って難航しそうです。